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『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』

2015-11-11 | ブログ

『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』平田オリザ 講談社現代新書2177、2013年

を読みました。以前から気にはなっていたのですが、書籍を読むまでにいたらなかった平田氏の本でした。

平田オリザ

 

はじめに

近年、「対話」を中心としたワークショップをさせていただくことが増えました。ホールシステム・アプローチの中の手法をその場、求めるものに合わせてアレンジしたり、組み合わせたりして使っています。

「ホールシステム・アプローチ」と言われる方法は、利害関係者を広く集めて(これが全システムであるとして)対話で話し合いを進めていくというものです。

この中には、ワールドカフェ、OST、AI 、フューチャーサーチという代表的な方法がありますこれらは、いろいろな一連のプロセスを経て進められます。

なぜ「対話」なのか?と言いますと、アメリカの物理学者で哲学者のデビット・ボウム『ダイアローグ』を読み、これからは「対話」が必要なのだと共感したからなのです。ばらばらになった人々をくっつけるのが「対話」だと言い、参加の元々の意味は加わるのではなく、一つになることなのだと言っていました。全体主義とは違う、参加者につながっている感じを持っていただけると合意できることが多いのではないかと考えて「対話」の手法を活用しています。

ということで、平田氏のいう「対話」「コミュニケーション」にもたいへん興味を持っておりました。

本書は、演劇、演じるというフィルターを通して「対話」「コミュニケーション」を見ていますが、演劇は社会の縮図とすれば、演劇の中の「対話」「コミュニケーション」は演劇の範囲を乗り越えて、広く社会に一般化できる部分が多いのではないか?と感じました。

 

「対話」について

平田氏は、「『対話』はAとBという異なる二つの論理が摺り合わさり、Cという新しい概念を生みだす。AもBも変わる。まずはじめに、いずれにしても、両者ともに変わるのだということを前提にして話を始める。」としています。

これにはたいへんな体力が必要とされそうです。そして、「対話」には基礎体力があるそうです。

「異なる価値観と出くわしたときに、物怖じせず、卑屈にも尊大にもならず、粘り強く共有できる部分を見つけ出していくこと」で、「そうした対話を繰り返すことで出会える喜びも、伝えていかなければならないだろう。」と。

さらに、「対話」をするには、相手の言うことを聴くだけではなく、自分のことも相手が理解できるように説明し、理解してもらうことが重要だということでした。

「対話」には言葉が必要です。もちろん、言葉がなければ話すことはできませんが、関係性がなければ言葉はありません。昔は女性の上司が男性に命令・指示するということはほとんどありませんでした。したがって、その場面にしっくりとくる言葉がないのです。そして、現在は、そのような「ジェンダーや年齢といった区別なく、対等な関係で『対話』を行うための言葉を生成していく『過渡期』だと言っていいだろう。」と。

対話できる、対話にふさわしい言葉をつくっていくことが求められるのかもしれません。そういえば、ヨーロッパでは、親、教師、上司にもファーストネームで呼ぶのだとか。名字や立場に縛られない関係を言葉でつくっているのかもしれません。

 

そして「成熟社会」のコミュニケーションとは

もう、日本は成熟社会です。その中では、国民の幸せの目標は一つではなく、多様です。その多様な、バラバラな価値観やライフスタイルのままで生きていくにしても、「どうしても、社会生活を営んでいくうえで、地域社会で決めていかなくてはならないことがある。」のです。

そのためには「非常に短期間に集団でイメージを共有し、コンテクストを摺り合せるノウハウ」「この技術こそが、いまの日本社会、日本の地域に必要なものではないか」と提案しています。それを平田氏は「協調性から社交性へ」と表現しています。

そして、今まで日本社会の前提となっていたことを覆す必要があると。「心からわかりあえないんだよ、すぐには」「心からわかりあえないんだよ、初めからは」を前提として対話していくことが求められている、ということでした。

確かに、さまざまな考え方の上に生きている人々には、“これ、常識だよね”と言っても人によって常識の範囲は違っていることを痛感しています。(だから、行き違い、心のすれ違いがおきるのですよね)

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めざす合意形成は

この前提を踏まえて、AとBを対話によってCにすることが可能になるのですね。この考え方は、私の「対話」に対する姿勢と共感できるところが多くありました。「対話」の手法で導き出したい答えは、AかBかを選ぶのではなく、Cという“止揚”されたものだからです。(実際に今夏、中学生と高校生の子ども会議でも“止揚”による合意形成を試みたところ、参加者のアンケートでは達成感を感じ、成果に納得しているという回答ばかりでした。)

お互いに出した答えに納得し、新しいものを生み出す。これが「対話」による合意形成なのではないかと考えるのです。

その納得が答えに対するコミットであり、お互いに信頼関係をつくっていくプロセスの重要なポイントなのではないでしょうか?

答えに対するコミットが高ければ、参加意欲が高ければ、その実行は成功します。デビット・ボウムのいう「ひとつにつながる」ことへ前進するのだと考えます。

 

対話によって成果をひきだすホールシステム・アプローチ。これからも活用する場面がますます増えそうです。

 

 

 


 
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